専門分野

生殖内分泌

生殖内分泌(不妊内分泌外来)のご案内

当科ではお子様を望まれるカップルに対し、タイミング法や人工授精といった一般不妊治療から、体外受精・胚移植、顕微授精、凍結胚移植などの生殖補助医療まで様々な医療を提供しております。 また複数の生殖医療専門医が在籍しており、不妊治療を受ける際には、原因、治療法をスタッフで十分に検討した上で、それぞれのカップルに詳しく説明を行い、カップルの納得のいく方法を一緒に選択し、妊娠を目指しています。

また、内分泌分野では女性ヘルスケア外来と連携の上、月経不順や無月経といった症状に悩まれている方々への検査、ホルモン療法、治療中のフォローアップを行っています。

不妊症の基礎知識

一般に、1年間避妊をせずに夫婦生活を送っているにもかかわらず妊娠しない状態を不妊症といいます。日本において10-15%の夫婦が不妊であり、健康な夫婦の1割以上が不妊に悩んでいると考えられています。

不妊症の原因は多岐にわたります。性別による不妊の原因は女性原因のみ41%、男性原因のみ24%、男女ともに原因あり24%、原因不明11%と、男性側にも約半数の原因があるとされており、原因がはっきりしない場合もあります。夫婦で協力し合ってあせらずに検査や治療を受けることが大切です。

日常生活の心がけ

  1. 趣味や娯楽で積極的にストレス解消を心がけましょう。
  2. 全身の血行がよくなるように心がけましょう。
  3. 体を締め付ける衣装は避け、適度な運動をしましょう。
  4. 女性は冷えすぎ、男性は温めすぎに注意しましょう。
  5. 偏食をしないように心がけ、やせすぎや太りすぎに注意しましょう。
    ホルモンバランスを崩し、卵巣機能低下の原因になります。
  6. 下着は清潔に、入浴は毎日心がけましょう。
  7. 禁煙しましょう。
    タバコに含まれるニコチンは血行障害を引き起こし、妊娠後の流産、早産、胎児発育障害の原因になります。また、男性では精子の異常や勃起障害の原因になります(副流煙も原因となる可能性があります)。

妊娠までのプロセス

  1. 卵子が排卵されます。
  2. 排卵された卵子が卵管采から卵管に入ります。
  3. 精液が腟内に射精されます(排卵前)。
  4. 精子が子宮・卵管を通っていき卵子と受精します。
  5. 受精卵が子宮内に着床します。
  6. 妊娠を維持する黄体ホルモンが分泌されます。

不妊の原因(妊娠までのプロセスのどこかに問題があると不妊の原因になる可能性があります。)

排卵障害、卵管因子、男性因子、頸管粘液異常、子宮因子、黄体機能不全、原因不明

1.排卵障害

卵胞が卵巣内で発育しない、あるいは発育しても排卵しない状態です。

血液検査による卵胞刺激ホルモン(FSH)・黄体ホルモン(LH)・プロラクチン(PRL)などの基礎ホルモン検査や、経腟超音波検査により原因を分別します。

高プロラクチン血症
プロラクチンという母乳を出す働きを持つホルモンが高いと排卵が抑制されてしまいます。
原因として下垂体腫瘍、薬の影響などがあります。
卵巣性無月経
卵巣そのものに問題があり排卵ができない状態です。
ホルモン療法を行いますが、治療効果は高くありません。
多嚢胞性卵巣症候群
多くの卵胞が卵巣に生じている状態で、卵巣の表面が硬くなり排卵が障害されます。生理不順の原因になります
視床下部-下垂体性無月経
視床下部や下垂体の異常でFSH・LHが分泌されない状態です。
先天性のもの、ダイエットや精神的な悩みも原因になります。
無排卵周期症
月経に似た出血が周期的にありますが、うまく排卵していない状態です。
2.卵管因子

クラミジア等の感染症や子宮内膜症により卵管が癒着、狭窄、閉塞したり、卵管水腫(液体が貯留する)を形成します。
子宮卵管造影で卵管の通過性や周囲との癒着の状態を検査します。

3.男性因子

精液検査で精子の数、運動率、奇形率を確認します。

精子を造る精巣の機能そのものの異常
原因不明のもの精巣静脈瘤などによるものがあります。
精子の通り道の異常
精子が通る管が炎症やヘルニアにより閉塞したり、または先天的に欠損している状態です。
精液の異常
精嚢、前立腺に炎症があると細菌により精子の運動が妨害されます。
性交障害・射精障害
ストレス、アルコール、栄養障害、糖尿病などの様々な原因があります。
4.頸管粘液異常

ホルモンバランスの乱れや腟炎などが原因となり、子宮頸管から分泌される粘液が少なくなると、精子が子宮内にうまく入れなくなります。

ヒューナーテスト(性交後試験)で頸管粘液の状態と精子との相性をみます。

5.子宮因子

子宮筋腫、子宮内膜ポリープなどによる子宮内腔の凸凹や、慢性的な子宮内膜の炎症により受精卵の着床が阻害されます。また、子宮奇形も原因になります。
経腟超音波検査、MRI検査、子宮鏡検査で子宮の状態をみます。

6.黄体機能不全

排卵後の黄体の働きが悪く、黄体ホルモンが十分に分泌されない状態です。基礎体温をつけていただき、2相性になっていることの確認や、排卵後の高温期に血液検査いよる卵胞ホルモン(E2)、黄体ホルモン(P4)を検査します。

不妊症の検査

生理の周期にあわせて以下のような検査を行います。

基礎ホルモン検査(月経周期3~5日目)

血液検査で卵胞ホルモン(E2)、下垂体ホルモン(LH,FSH)、甲状腺ホルモン(F4,TSH)の基礎ホルモンが正常に分泌されているか、血糖が正常であるかを調べます。

子宮卵管造影検査(月経周期7~10日目)

X線透視下に経腟的に子宮に造影剤を注入し、子宮の形態や卵管の通過性を診断します。また、この検査で卵管の通過性がよくなる効果もあります。

子宮卵管造影

卵胞測定・ヒューナーテスト(月経3日目~月経周期14日前後)

経腟超音波検査で月経3日目頃に胞状卵胞を確認します。その後は卵胞の発育の有無、排卵の有無、子宮内膜の厚さを確認します。また、排卵に合わせてタイミングを取っていただきおりものと精子の相性をみます。

黄体機能検査(高温相5~7日目)

血液検査により着床に重要な黄体ホルモンを採血して測定します。

クラミジア抗体、抗核抗体検査(基礎ホルモン検査測定と同時に行います)

血液検査によりクラミジア感染、既往の有無、抗核抗体の有無を調べます。

AMH(抗ミュラー管ホルモン)

血液検査によりAMHを測定します。AMHは卵巣予備能マーカーとして、排卵誘発法決定の際に参考にします。

精液検査(外来でいつでも可能です。検査方法は外来担当医にご相談ください。)

精液を実際に顕微鏡で観察することにより精子の数や形態、運動率を測定します。

子宮鏡検査(月経周期7~10日目)

外来で、軟性子宮鏡により子宮内腔にポリープや筋腫、慢性子宮内膜炎がないかを確認します(その他の検査や治療経過で必要と判断された場合に行います)。

不妊症の治療法

排卵誘発法

排卵誘発剤には内服薬と注射があります。副作用として多胎妊娠や卵巣過剰刺激症候群があります(様々な薬剤や方法があります。後述していますが患者さんにより適切と思われる方法が異なりますので詳しくは外来で担当医にご相談ください)。

タイミング法

超音波検査で卵胞の発育を確認し、排卵日の1~2日前に夫婦生活をしていただく方法です。

人工授精(AIH)

経腟超音波検査で卵胞を確認し、排卵日に合わせて提出していただいた精液から精子を十分に回収し、子宮内に注入する方法です。
男性因子(乏精子症・精子無力症)、頸管粘液の分泌が悪い場合などに行っています。
妊娠率は1回あたり5~10%で、児に先天異常が多くなることはありません。
排卵誘発剤を使用した場合、多胎率は約5%であると報告されています。

体外受精・胚移植(IVF-ET)

卵管が閉塞している場合、精子数が著しく少ない場合、タイミング法や人工授精でなかなか妊娠しない場合に行います。
卵子を取り出して、男性から採取した精子と体外で受精させ、分割した胚を子宮内に戻す方法です。
妊娠率は1回当たり約30%で(カップルにより異なります)、児に不妊治療をしない妊娠に比べて明らかに先天異常が多くなることはないとされています。

合併症
卵巣過剰刺激症候群・腹腔内出血・骨盤腹膜炎などを起こすことがあります。
分割期胚移植
受精後3日まで体外で培養してから子宮内に移植します。
胚盤胞移植
受精後5日まで体外で培養してから子宮内に移植します。
凍結胚移植
受精卵を一旦凍結保存し、排卵後3日目または5日目に移植します。
受精胚の発生過程

※当院では日本産婦人科学会の「生殖補助医療における多胎妊娠防止に関する見解」に則り、移植胚は原則1つとしております。2胚移植が許容される条件は35歳以上の方、または2回以上続けて妊娠不成立の方、となります。

顕微授精(ICSI)

体外受精・胚移植の応用技術です。運動精子の数が極端に少ない場合、受精障害がある場合に行う方法です。顕微鏡下で極めて細いピペットに使用し、一匹の精子を卵子内へ注入する方法です。

当科における治療の特色

当科では系統的(漏れのない)不妊症検査が全て終了した後、生殖医療専門医を含む複数医師で適切な治療方針を検討し、各カップルと相談の上で治療方法を決定します。不妊症治療に先行して婦人科的な治療(子宮筋腫や卵巣嚢腫に対する手術療法)をおすすめさせていただく場合もあります。

先行する手術療法から不妊治療、妊娠後の周産期管理まで一連の対応が当院で可能です(手術療法や周産期管理は予約状況の関係で他院をご紹介させていただく場合もあります)。

誘発方法

卵巣機能(主に血中AMH計測による卵巣予備能)、年齢を考慮した上で適切な誘発方法を選択いたします。最終的には患者さんの希望をお聞きした上で、誘発方法を決定しております。当院での誘発方法はGnRHアゴニスト併用ショート法、GnRHアンタゴニスト法、PPOS法(黄体ホルモン併用法)を主としており、排卵誘発剤はhMG/rFSH製剤を使用しております。また、必要に応じてフェマーラ®やクロミッド®などの内服薬を併用しております。保険適応開始以降、r-FSH製剤(ゴナールF®️、レコベル®)やr-hCG製剤(オビドレル®)を用いた在宅自己注射による治療も積極的に採用しております。また、卵巣機能が著しく低下している方には、負担の少ない自然周期での採卵も行っております。

採卵方法

通常は、日帰りの局所麻酔により採卵を行っておりますが、痛みが強い方や卵胞数が非常に多い方に対しては静脈麻酔による採卵(原則入院)も相談可能です。

培養方法

当科では2019年1月から、胚培養を原則、タイムラプスインキュベータシステムで実施しております。卵1個1個の分割状況を、ビデオカメラで連続モニタリングしながら観察しています。受精卵の観察を培養器の開閉をすることなく実施できるため、受精卵に対するストレスを最小限に抑えることができます。(培養件数が多くなった場合、全ての胚をタイムラプスシステムで観察できないことがありますのでご了承ください)

がん生殖

新潟県がん・生殖医療ネットワークの生殖医療施設として、小児・AYA(Adolescent and Young Adult)世代のがん患者さんへの妊孕性温存療法を提供しています。

AYA世代とは、主に、思春期(15歳~)から30歳代までの世代を指しています。AYA世代は中学生から社会人、子育て世代へと生活環境や社会環境が大きく変化する時期であることが多く、がん患者さんやその家族の方が抱える悩みにも特有なものがあります。

がん治療の際に用いる、薬剤や放射線などは性腺(卵巣や精巣)に影響を及ぼし、妊孕性(妊娠に必要な機能)の著しい低下を及ぼす可能性があり、治療の前に精子や卵子、受精卵凍結を提供しています。

※がん生殖を希望される方は、専用の申し込みが必要となりますので、まずはがん治療担当の先生にご相談下さい。

費用について

2022年4月より、人工授精等の「一般不妊治療」、体外受精・顕微授精等の「生殖補助医療」ついて、保険適応されることとなりました。

保険収載された治療費については全て保険適応で全国一律の費用(下記)となりますが、体外受精や顕微授精には年齢制限や移植回数に制限があります。

また、当科で治療を受ける際に自費診療での検査を行っている項目(感染症検査等)もありますので詳しくは外来担当医にご確認ください。

管理料金

項目 費用(3割負担分)
一般不妊治療管理料(3月に1回) ¥750
生殖補助医療管理料1(月1回) ¥900

検査料金

項目 費用(3割負担分)
抗ミュラー管ホルモン(AMH) ¥1,800

手術、手技料金

項目 費用(3割負担分)
人工授精 ¥5,460
採卵術 基本料 ¥9,600
1個の場合 ¥16,800
2個~5個の場合 ¥20,400
6個~9個の場合 ¥26,100
10個以上の場合 ¥31,200
体外受精(c-IVF) 体外受精(スプリットの場合半額+ICSIの料金) ¥12,600
顕微授精(ICSI) 1個の場合 ¥14,400
2個~5個の場合 ¥20,400
6個~9個の場合 ¥30,000
10個以上の場合 ¥38,400
受精卵培養 1個の場合 ¥13,500
2個~5個の場合 ¥18,000
6個~9個の場合 ¥25,200
10個以上の場合 ¥31,500
胚盤胞培養加算 1個の場合 ¥4,500
2個~5個の場合 ¥6,000
6個~9個の場合 ¥7,500
10個以上の場合 ¥9,000
胚凍結保存 1個の場合 ¥15,000
2個~5個の場合 ¥21,000
6個~9個の場合 ¥30,600
10個以上の場合 ¥39,000
胚凍結保存維持(年1回) ¥10,500
胚移植 新鮮胚移植 ¥22,500
凍結融解胚移植 ¥36,000
その他 卵子活性化処理 ¥3,000
高濃度ヒアルロン酸含有培養液 ¥3,000
アシステッドハッチング ¥3,000
治療開始日の年齢 保険適用可能な移植回数
40歳未満 6回まで
40~42歳 3回まで
43歳以上 保険適用なし

当外来での対応ができない方

1.事実婚カップルで必要書類を提出していただけない方

以前は事実婚のカップルに対し、不妊治療を行っておりませんでしたが、現在は必要書類をご提出していただければ治療が可能な場合があります。必要書類、注意事項等は外来で直接担当医にご確認ください。

2.当科の提供する医療にご理解、ご協力を頂けない方

患者さんに十分なご説明の上、相談し治療を行っていきます。他院での治療やセカンドオピニオンなど希望される際は、担当医にご相談下さい。

3.凍結精子を使用した人工授精を希望の方

当科では、凍結精子を使用した人工授精は2019年3月以降、受け付けない方針としております。何卒御理解の程お願い申し上げます。

4.非配偶者間人工授精や精子提供、卵子提供、受精卵提供による不妊治療を希望される方

当科における治療成績

体外受精(ART)による妊娠率(移植周期あたりの妊娠率)

34歳以下
2020年 46.8%(22/47)
2021年 43.3%(13/30)
2022年 55.6%(10/18)
合計 47.4%(45/95)
35-39歳
2020年 45.8%(27/59)
2021年 33.8%(22/65)
2022年 37.8%(14/37)
合計 39.1%(63/161)
40-44歳
2020年 16.3%(22/47)
2021年 20.8%(16/77)
2022年 30.4%(7/23)
合計 30.6%(45/147)
45歳
2020年 0%(0/10)
2021年 0%(0/7)
2022年 33.3%(1/3)
合計 5%(1/20)

最後に不妊に悩まれる方へ

現在の日本では、不妊症に悩むカップルは10組に1組以上とされ、決して珍しくはありません。それぞれのカップルで不妊症の原因だけでなく、考え方や生活環境、社会環境などが異なるためそれぞれのカップルに合わせた適切な治療が必要となります。

当科では系統的(漏れのない)検査と結果を踏まえた生殖医療専門医を含む複数医師で検討の上、それぞれのカップルに最適と考えられる不妊治療を説明、相談の上、施行していきますのでお気軽にご相談下さい。

※大学受診は紹介状が必要ですのでお近くの産婦人科を受診し、新患外来をご予約の上、紹介状をご持参ください。