新潟大学医学部産科婦人科学教室

婦人科のご案内

良性疾患について

子宮筋腫

Q:どんな病気?

A:20才から40才くらいまでの女性の4-5人にひとりが持つと言われる、頻度の高い病気です。子宮の筋層にコブができて大きくなる病気です。原因はよく分かっていませんが、何らかの原因で生じた小さな筋腫の芽が大きくなってコブをつくると考えられています。子宮筋腫は、卵巣から分泌される女性ホルモン(エストロゲン)によって増殖し、大きくなると考えられています。

Q:症状は?

A:筋腫が小さいうちは、自覚症状が見られないことが多いのですが、筋腫の発生する場所や大きさにより、月経多過や月経痛、不正出血、貧血、動悸、息切れなどが現れます。不妊症の原因にもなる場合もあります。

Q:治療は?

A:筋腫による症状が軽いものは、対症療法といって症状を軽くする治療が行われます。月経痛に対する鎮痛剤の投与や貧血に対する鉄剤の内服が行われます。

筋腫が大きく、月経過多や貧血がひどい場合には、月経を止める薬物療法が行われます。GnRH agonist療法といって一月に一回お腹の皮膚に注射をして、半年間月経を止める方法により、筋腫の縮小をはかります。ただし、この治療のみで筋腫を完全になくすことはできません。治療中は月経がとまるため、症状は軽減しますが、治療をやめると症状が再度出現することがあります。また、人工的に閉経の状態にするために顔面のほてりやいらいらなどの更年期障害のような症状が出たり、骨量が減少したりすることもあります。

薬物療法で症状がとれない場合や、筋腫が不妊症の原因となっている場合には筋腫を取り除く手術が行われます。

子宮筋腫に対する内視鏡下手術

子宮筋腫の治療法として、上記のように薬物により症状を軽くしたり、月経を止めて一時的に筋腫を縮小させる方法がありますが、

  • 症状が強い場合
  • 大きな筋腫
  • 筋腫が不妊症の原因となっている場合

には手術が必要になります。

当科では筋腫の手術として、内視鏡下手術(腹腔鏡下手術、子宮鏡下手術)を積極的に行っています。筋腫に対する内視鏡下手術としては以下のようなものがあります。

1)腹腔鏡下筋腫核出術

臍部に2cm程の傷をつけて、そこから腹腔鏡というカメラをいれて筋腫をくりぬく手術(核出術)を行っています。他に2~3箇所の1cmほどの小さな傷から、電気メスやはさみなどを入れて筋腫をくりぬきます。筋腫のくりぬきから子宮の縫合まですべて腹腔内で行います。くりぬいた筋腫は細かく切断して、傷から体外へ取り出します。筋腫だけをくりぬき、正常な子宮は残りますから、その後の妊娠も可能です。10cm大くらいまでの大きさの筋腫ならこの方法で手術が可能です。ただしすべて体内で手術を行うため、筋腫の大きさが大きい場合や、筋腫の数が多い場合は、出血量が多くなったり、手術時間が長くなったりするため、腹腔鏡下補助下筋腫核出術が行われます。

2)腹腔鏡補助下筋腫核出術

上記の手術の傷に、2~3cmの傷を加えてその傷から筋腫をくりぬきます。筋腫をくりぬいた後の子宮の縫合もその傷から行うことが可能です。傷はやや大きくなりますが、ほとんど目立たず、身体への負担も腹腔鏡下筋腫核出術とほぼ変わりありません。筋腫径が大きく、個数も多いときに行われる手術です。

→腹腔鏡下手術は、手術後5日くらいで退院が可能です。退院後も傷が小さいため、退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

腹腔鏡下筋腫核出術
3)腹腔鏡下子宮全摘術

子宮筋腫のみ摘出した際は、子宮筋腫の再発という問題があります。今後、妊娠や出産を希望なされないかたには、子宮を全摘する根治手術が選択されることがあります。腹腔鏡下子宮全摘は、1000gを越える子宮にも適応を拡大しており年々手術件数が増加しております。

1000gを越える子宮に対する腹腔鏡下子宮全摘術
巨大な子宮               子宮全摘後
4)子宮鏡下筋腫切除術

子宮の内側に飛び出した筋腫を粘膜下筋腫とよびますが、この粘膜下筋腫は子宮鏡という内視鏡を膣の方から子宮内に挿入して筋腫を削り取る手術が可能です。この手術は、お腹はもちろんどこにも傷をつけずに手術が可能です。また通常は全身麻酔は必要とせず、腰椎麻酔といって、背中から針をさして下半身の痛みをとる局所麻酔にて手術が可能で、腹腔鏡下手術と比較しても術後の回復はさらに早まります。子宮の筋肉の中にできている筋腫には行うことができません。通常は3cmくらいまでの筋腫に対して手術が行われます。粘膜下筋腫でも5~6cm以上になると、一回では取りきれず数回にわけて切除が必要になることがあります。

→子宮鏡下手術は、手術の翌日には退院が可能です。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

5)開腹手術

筋腫の大きさが10cmを超えるようなものや、数が多いものは内視鏡での手術が難しいため、お腹を切る手術(開腹手術)が行われます。

開腹手術でも筋腫核出術が可能ですが、もうお子さんをもうける予定がない場合には子宮を全てとる手術(子宮全摘術)が行われることもあります。

開腹手術の場合には、術後8から9日間の入院が必要になり、退院後も日常生活に戻るまでには1~2週間を要します。

6)その他の治療法

子宮筋腫に対する、上記以外の治療法として、子宮動脈塞栓療法や収束超音波療法などが試みられていますが当院では行っておりません。いずれも現時点では、保険適応がないため自費診療になります。

子宮内膜症

子宮内膜症は、子宮内膜が本来あるべき場所(子宮の内側)以外の場所で増えてしまう病気です。卵巣に子宮内膜症が起こると卵巣内に血液がたまり腫瘍となります。これをチョコレート嚢腫と呼びます。子宮の筋層内に子宮内膜症が起こると、子宮筋層が厚く肥厚し、子宮が腫れ上がった状態になります。これを子宮腺筋症と呼びます。いずれも、病状が進むと激しい月経痛がおこります。月経の時以外でも腹痛がおこったり、排便痛や性交時痛の原因となります。

これらの痛みに対しては、症状が軽い場合は鎮痛薬を使用した対症療法が行われますが、症状が強い場合には排卵を止める薬物を使用した内分泌療法がより効果的です。

子宮内膜症(卵巣チョコレート嚢腫と子宮腺筋症)

子宮内膜症の薬物療法

1)低用量ピル

微量のエストロゲンとプロゲステロンが一錠になったものを内服して、排卵を止めます。月経は毎月ありますが、子宮内膜が薄くなるため、出血量が少なく、出血時の痛みも軽くなります。子宮内膜症の症状コントロールや再発予防に有効で、これまでの中用量ピルよりも副作用が少ないことから注目されています。長期間の内服が可能ですが、子宮内膜症自体を治療するものではないため、内服を行っていても病変が進行する場合もあります。

2008年には、低用量ピルのうちのひとつと同一成分の薬剤が子宮内膜症に伴う月経困難症の治療薬として保険適応となりました。

2)プロゲスチン

合成プロゲステロンを内服して、排卵を止めます。月経も止まりますが、やや不正出血の頻度が高いといわれています。痛みを抑える効果と内膜症病変の縮小効果があるといわれています。この薬も長期間の内服が可能です。

2008年には新しい黄体ホルモン剤が保険適応となりました。

3)GnRH作動薬

GnRHという頭の中の視床下部というところから分泌されるホルモンを月に一回お腹の皮下に注射します。治療開始後、2ヶ月目にはほとんどの方の排卵が止まり、月経も止まります。痛みを抑える効果があります。内膜症病変の縮小効果が最も高い薬剤ですが、更年期症状や骨の量の減少をきたすことがあり、通常半年以上は使用されません。

→子宮内膜症により生じる痛みに対する効果は、どの薬剤を使用しても8割から9割の方が痛みが軽くなるといわれています。しかし、薬物の効果は使用をやめるとなくなってしまうため、内膜症を根本的に治すには手術が必要です。

子宮内膜症の腹腔鏡下手術

チョコレート嚢腫核出 〜 癒着剥離 〜 内膜症病変焼灼

卵巣に子宮内膜症が起こると卵巣内に血液がたまり腫瘍となります。これをチョコレート嚢腫と呼びます。お腹の中を覆っている膜(腹膜)に内膜症が起こると、お腹の中で癒着がおこります。チョコレート嚢腫が6~7cm以上に大きくなったり、癒着がひどくなると、痛みの程度も強くなります。また不妊症の原因になることもしばしばです。

このような患者様には、腹腔鏡による手術を行っています。

手術は、腹腔鏡により嚢腫だけを切除する嚢腫核出術、癒着を剥離する癒着剥離術、腹膜の病変を電気メスやレーザーメスで焼いてしまう焼灼術があり、患者様のお腹の中の状態により、こられを組み合わせて手術を行っています。

腹腔鏡下手術をした場合、手術後4日くらいで退院ができます。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

子宮腺筋症に対する手術

子宮腺筋症核出術

子宮腺筋症に対する手術療法は、子宮を全摘出するという方法が一般的でした。ですがこの方法では、子宮を摘出してしまうため、手術後に妊娠することは不可能になります。最近では、子宮腺筋症も子宮筋腫と同じように、腺筋症の部位のみ切除して子宮を残し、手術後に妊娠が可能にする治療法が行われるようになりました。それが「子宮腺筋症核出術」です。ただし、この手術はすべての子宮腺筋症に行えるわけではありません。子宮腺筋症は子宮全体が腫大するため、子宮筋腫のように筋腫と正常子宮との境界がはっきりしないからです。子宮腺筋症の発症部位や大きさ、周囲組織との癒着の有無などにより、手術が行える場合と行えない場合があります。詳しくは、担当医にご相談下さい。

卵巣嚢腫

卵巣嚢腫に対する腹腔鏡下手術

卵巣嚢腫(良性の卵巣腫瘍)のほとんどは(かなり大きなものでも)腹腔鏡での腫瘍をとることが可能です。手術の方法も卵巣を全部取ってしまうのではなく、腫瘍の部分だけを取って、正常卵巣の部分は残すことができますから手術後も卵巣は正常に機能します。

→腹腔鏡下手術をした場合、手術後4日くらいで退院ができます。退院後数日で日常生活に戻ることが可能です。

骨盤臓器脱と尿失禁

近年、膀胱瘤、子宮脱、直腸脱などの「骨盤臓器脱」や「腹圧性尿失禁」などの女性特有の尿路生殖器の病気を専門的に取り扱う女性泌尿器科「ウロギネコロジー」という部門が注目されています。

骨盤臓器脱で実は最も多く下垂してくる臓器は子宮ではなく、膀胱であるために頻尿、排尿困難および尿失禁といった排尿に関する症状が多くみられます。骨盤臓器脱や腹圧性尿失禁で悩んでいる患者さんは極めて多く、以前はあまり有効な治療方法がありませんでした。近年、骨盤臓器脱・尿失禁に対する新たな低侵襲治療の出現により治療可能な病気となりました。骨盤臓器脱には多彩な治療法があります。患者さまそれぞれに合ったベストの選択肢を提供します。

骨盤臓器脱の保存的治療

骨盤底筋体操・生活指導

骨盤臓器脱予備軍、および軽症の患者さまには骨盤底筋体操(PFMT: Pelvic Floor Muscle Training)をご指導いたします。また、排尿トラブルおよび排便トラブルに関しては生活指導をベースに簡単な内服治療でコントロールできるケースもあります。

膣内ペッサリー、膣外ペッサリー

膣の中にリング状の「つっかえ棒」を入れるイメージです。リングは持続的に挿入する方法をとる場合は3-4か月ごとの交換をします。もし、自己着脱可能でしたら、半年ごとの受診で管理できます。ただし、リング不適合(脱落しやすい、膣壁ダメージが強いなど)のケースもありますので、診察にて選択いたします。また、膣外ペッサリーと称して、下着に装着する補正具もあります。

膣内ペッサリー
膣外ペッサリー

骨盤臓器脱に対する手術方法

① 膣式手術:膣式子宮全摘 膣壁形成

膣から子宮を摘出し、子宮・腟を支える靭帯で補強することで骨盤臓器脱を補正いたします。症例に応じて膣断端(子宮を摘出した後の腟の頂上)を骨盤内の強靭な靭帯に固定する方法もあります(仙棘靭帯固定術)。さらに腟入口および肛門を閉める作用のある筋肉(肛門括約筋)を縫い縮めて補強する方法もあります。

② TVM(Tension-free Vaginal Mesh)手術

膣からポリプロピレンメッシュを挿入し、子宮・膀胱・直腸を拳上する手術です。手術は1時間半程度で全身麻酔・脊椎麻酔で行うことができます。手術が短時間で再発率が非常に少ないため、とても有効な手術です。患者様の病状に合わせて、プロリフト型、アップホールド型、エレベート型など様々なタイプを選択いたします。

近年、メッシュの使用量をできるだけ少なく、より有効な拳上効果が得られるよう工夫されています。日本女性骨盤底医学会および日本骨盤臓器脱手術学会にて認定を受けた術者がおこなうことが義務付けられており、学会にて術中および術後の合併症症例が管理されています。

Uphold型TVM手術
③ 腹腔鏡下仙骨膣固定術

腹腔鏡下仙骨腟固定術(Laparoscopic Sacral Colpopexy, LSC)は腹腔鏡下にポリプロピレンメッシュシートを用いて骨盤臓器脱を治療する方法です。

欧米では骨盤臓器脱の治療のスタンダードとして以前から行われてきた術式ですが国内では先進医療として限られた施設でしか手術を受けることができませんでした。平成26年4月からは健康保険の適応となり、条件を満たした施設では保険診療としてこの手術が行うことができるようになりました。

手術は3時間程度で全身麻酔での手術となります。術後の痛みが少ないのが特徴です。術後性交渉に対してほとんど影響なく、再発率も低い手術です。

LSC模式図
実際の腹腔鏡画像

尿失禁に対する手術療法

尿道スリング手術

女性では尿失禁の保有率が比較的若い年代から増加し、50歳前後ですでに30%にもなります。これは女性骨盤底のゆるみが引き起こす症状です。腹圧性尿失禁は①咳・くしゃみ、②歩行・走行、③スポーツなどで尿が漏れるのが特徴です。

当科では腹圧性尿失禁およびそれを含む混合性尿失禁に対して、適応のある患者さんには手術を行っております。ポリプロピレンメッシュのテープで尿道を支える尿道スリング手術が有用です。

手術時間は30分程度で入院期間は4日間前後です。